大判インクジェットプリンタとRIPの話

これはDTP Advent Calendar 2018の6日目の記事です。

昨日5日目の記事は大間知さんのAdobe SenseiがIllustratorでの自動レイアウトを実現できない理由 | CS5でした。


さて、本稿では、大判・産業用プリンタのRIPの概要と、それを活かすデータの作り方を、私見を交えて雑に説明します。

なお、DTPアドベントカレンダーの読者ということで、オフセット印刷のデータの作り方には馴染みがある前提でお話します。

では、まずはざっと概要を述べておきます。

RIPの使用が一般的

家庭用・オフィス用のインクジェットプリンタは、OSのプリント機能+メーカー毎のプリンタドライバ(または汎用ドライバ)が一般的ですが、大判や産業用のプリンタはRIPを介して出力します。CAD系や中判(〜A1)ぐらいまでのプリンタはOSドライバ出力で済ませることが多いです。

RIPが必要な理由

RIPを使う理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 大判インクジェットプリンタは生成するイメージデータが巨大
    • フォントやベクトルデータの解像度非依存の特性を活かしたい
    • 一度にイメージを生成せず、生成と出力を同時並行で進める機能を使いたい
  • 白、メタリック、クリア、プライマー、カラーインクの複数の組み合わせ、高濃度出力など、特殊な出力指示をしたい
    • 特色・オーバープリントを扱いたい
    • 特色版を自動生成・調整機能を使いたい
  • タイリング、ネスティング、治具面付、分割出力など、ジョブをRIP側で並べたい
    • トリムボックス・ブリードボックスなどドキュメントのデジタルトンボ情報を活かしたい
  • 多くのメディアへの対応とカラーマネジメント機能を提供したい
    • CMYKデータを扱いたい・透明を含むデータを直接処理したい
  • プリント&カット機能など、出力以外の機能を処理したい

インクジェットの国内主要プレイヤー

大判・産業用インクジェットの国内主要プレイヤーですが、

  • 水性染料・水性顔料プリンタ(グラフィック用途)は、ほぼEPSONとCanon(HPもあるっちゃある)
  • サイン・屋外グラフィック用の溶剤プリンタはMimaki、Roland DG、沖データ(OKI DATA)、EPSON、MUTOH、HP
  • ラテックスプリンタはほぼHPのみ
  • UVプリンタ(ロール)はMimaki、Roland DG、MUTOH、富士フイルム、SCREEN、Canon、HP、EFI、AGFA
  • UVプリンタ(フラット)は上記に加えてOKI DATA、swissQprint

といった顔ぶれです。

自社RIPと汎用RIP

Mimaki(RasterLink6Plus)とRoland DG(VerseWorks 6)、AGFA(ASANTI)は独自のRIPを擁しており、基本的に自社の全ての機種に対応します。EPSONもEdge Printという自社RIPを溶剤プリンタ用に提供し始めました(11月21日に出たばかりで、まだほとんど誰も使ってない)。

他のメーカーは、汎用のRIP(ONIX、Caldera、Fiery XF、Wasatch)に、自社のプリンタに対応する専用のモジュールを組み合わせて提供しています。

自社RIPは操作性に優れた使いやすいものが多く、新機種対応・不具合修正を含めたバージョンアップも随時行われていて、独自機能も充実しており、大変人気があります。他方、汎用RIPはメーカーを問わず様々な機種に対応していることから、保有インクジェットプリンタのRIPを統一することができるメリットがあります。

その他、プルーフ用途のRIP、白黒+網点出力用の製版フィルム出力用RIPなどがあり、用途により使い分けられています。

RIPのエンジン

AdobeのCPSI・APPEと、Jawsが広く使われています。

  • RasterLinkはWasatchのエンジンを使用しているとの記述があります(=Jaws)
  • VersaWorksは5までCPSI、Dualと6からはHarlequinです。
  • ASANTIはAPPEです。
  • ONIX 12はJawsで、Thriveと18からAPPEです。
  • CarderaはAPPEです。
  • Fiery XFはAPPEです。
  • WasatchはJawsのようです。
  • Edge Printは現在のところ不明ですが、Adobe製では無いようです。

ONIXのJawsはイマイチ感がありますが、他はエンジン由来の不具合も少なく、大きな差は感じないと思います。
全体としてはJawsが減って、APPEのより新しいバージョンの採用が増えている傾向にあります。

RIP用にデータを整える工程について

編集するソフトウェアは、主にIllustratorが使われています。

PDFでデータを受け取ってそれをそのまま用いることもありますが、RIP投入前にデータを調整・手直ししたいケースがままあるため、ネイティブデータをあわせて預かることが多いです。透明のステッカーや色付きの板に印刷する場合など、お預かりしたデータから、キャラクターの形状にあわせて白版を作成することが頻繁にあります。また、キャラクター形状に切り抜くためのデータを作成することもあります。横断幕の縫製や看板に貼り込む際に、周囲のぬり足しを長めに確保するために加工させてもらうこともあります。

出力の作業環境には一般に追加書体はインストールされていないので、多くの現場で、何でもかんでも文字のアウトライン化を要求してきます。また、対応できるバージョンがまちまちで、ちゃんと確認しないとムリヤリ開かれたりして事故ります。やたらに下位バージョン保存を求められることも多いです。恐ろしいことに、下位バージョン保存を、危険ではなく、安全な方法だと思っていたりします。営業担当者に聞くと「ウチは最新版OKです!」と元気に言うのですが、かなりの確率でCS6までだったりするので、「CC2018で大丈夫か現場に確認してみてくれ」などと具体的に問い合わせています。

RIPへ投入するデータは、PDFが主流です。この時、画像を高画質のJPEGに圧縮してしまうことも多いです。

出力内容が大きく、たとえば10mの横断幕を作る際は、PDFの限界サイズを超えてしまうので、1/2や1/4サイズで作成して、RIPで拡大指定するようにします。

出力内容が小さく、複数出力する場合、面付けを行います。インクジェットにおける面付けは、ロール紙の出力幅を無駄にしないように、無駄なく並べることが目的です。後工程でプロッタでカットしたり、人間がカッターナイフでカットしたりするために、都合の良い並びに整えます。これを、RIPの機能を用いて行う場合と、Illustrator上であらかじめ並べてしまう場合があります。

また、ボールペンを沢山並べて一度に印刷する場合など、一定の間隔に材料を並べて置いて、データも同じように並べて作成することもあります。UVフラットベッド機のRIPには、治具配置印刷という、こういう目的の為に用意された特別な面付け機能があったりします。

インクジェット出力用データを作成する際のヒント

力量のある出力事業者を利用する

いつもお願いしている協力先がない場合は、ネット等で検索して探されると思います。

その際、値段が重要な判断材料になることと思いますが、それだけはなく、自身の目的にかなう出力が可能な出力事業者を選定してください。

例えば、一般にサイン系の出力事業者は、発色良く鮮やかに仕上がっているものをヨシとする運用をしており、きちんとしたカラーマネジメントは行っていません。そもそもCMYKにJapanColorのプロファイルをあてず、RIPに用意された、より鮮やかな発色に仕上がるプロファイルをあてて出力していたりします。

オフセット等で製作した基準印刷物があるのであれば、色再現を保証する能力のある出力事業者を選定しましょう。また、後述の細かな要望を受け付けて、対応できる出力事業者を見つけておきましょう。同じ機材で運用していても、仕上がりに雲泥の差があります。

解像度が粗くてもキニスンナ

大判では、そもそも十分な解像度を確保できない場合があります。

大判の出力は離れたところから見るものなので、たとえば24dpiの画像でも、別に問題無く綺麗にみえたりします。

手元にある画像が粗いからと言って、必要以上に高解像度画像を求める必要はありません。通常、そのままで十分綺麗です。

スウォッチで特色を指定して、ピンポイントで色合わせができる

インクジェットプリンタの色域はオフセット印刷等と比べて一般に広いため、CMYKの指定では表現できない色を再現することも可能です。

インクジェット用のRIPは、特色指定してある部分の色を、プリンタの色域の中から自由に差し替える機能を持っています。PANTONEやDICの特色スウォッチをCMYKに変換せずそのままデータに含めて入稿し、特色指定部分を再現したい旨を伝えましょう。

特色は測色してLab指定も可能

現物の色に合わせる必要がある場合には、測色機でLab値を算出し、特色スウォッチをその色に指定するということもできます。仮の色を指定した特色スウォッチで指定し、色見本を預けて、測色して合わせてもらってください。あるいは、自分で測色してLabを伝えてください。

純色の保持

インクジェットのインクは、オフセットのインキと発色が異なるため、CMYKデータからCMYKデータへの変換が行われます。

この際、K100で作成した文字や細線も、CMYK混色のブラックに変換されます。真っ黒には出力されますが、版ズレ(インク滴の着弾ズレ)がわずかながら存在し、またインク量が多くなるため、おおむね太ったり潰れたりしてしまいます。QRコードなどは最悪です。

インクジェット用のRIPには、K版を混色ブラックにせず、純粋にKのみで出力するように指定するオプションがあります。また、特色スウォッチで指定しておき、プリンタのCMYK値を直接指定することもできます。このレベルの指示が発注側から行われることはまれで、主に出力業者のデータ編集担当やプリンタのオペレーターが判断することになりますが、やるとやらないでは仕上がりに大きな差がでます。

同様に、Y100のベタにもCやMが入りますが、特にCの粒がザラザラと目立って汚く見える場合があります。こういう場合にも、色の再現よりも粒状感の低減を優先してY100を維持するよう指定することがあります。

色域の広いCMYK空間で作業する

そもそもJapanColorの色域でデータを作成するのではなく、色域の広いCMYK空間でデータを作成するという手もあります。たとえば、PRMG(Perceptual Reference Medium gamut)ベースのプロファイルを作業用CMYKに用いて、これを出力時にデバイスリンクプロファイルで変換するという運用が考えられます。詳しい説明はここでは割愛しますが、興味のある方は下記の資料を参照してください。

なんとなく綺麗に見えていればいいんだよ!

色の再現ではなく、いかにもCMYK然とした鈍い発色を、鮮やかに色域拡大するためのプロファイルがプリンタメーカーによって提供されています。WideMimaki2013forSign.icc、EpsonWideCMYK_Ver2_M.icc、Roland_SignCMYK.iccなどがそうです。なんというか、とても派手に色が変換されます。出力事業者に、あの派手に出るモードで出して欲しい、とお伝え下さい。

おわりに宣伝

いろいろ端折りながら、あまり語られることのないインクジェットのRIP周辺の話をつらつらと書いてみました。説明せよと言われればなんとでも説明できるのですが、自由に書こうとするとホント難しいですね。

ところで私、昨年の4月からDTP-Mstdn.jpというDTP・デザイン・印刷に関わる人々のためのマストドンのインスタンスを運営しています。面白そうだなと思った方は、是非遊びに来て下さい! そういえば登録したけど忘れてた、という方、この機にまた遊びに来て下さい!


明日7日目の記事はSubiさんのすびの書 Acrobatのカスタムプリントプロファイルがすごかった話です。DTP Advent Calendar 2018、DTPにまつわる様々な記事が一堂に会しており大変読み応えがありますので、ぜひ他の記事もお楽しみ下さい。

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